こんにちは、〈声楽・ピアノ教室〉の鹿児島音楽教室Sing!、郷田です!
今回は、軟口蓋周囲の筋肉についてのお話をしていきたいと思います。
今回の話
♪軟口蓋論争が勃発している
♪軟口蓋周辺の筋肉の動きを知る
♪軟口蓋論争の犯人は?
軟口蓋論争とは?
実はイタリアでも伝統的にこの難口蓋を上げて歌うってことが言われています。そして、昔の偉大な歌手も、軟口蓋を上げて歌っていると言う方が結構たくさんいたんですね。ただ、ちょっと…この図を見てください。
軟口蓋を上げて、咽頭壁のとこにべたっとくっつけたとします。そうすると…上咽頭腔と口腔の間に蓋がされるんですね。
上咽頭腔の方には絶対に、空気も通らないですし…ということは、この副鼻腔ゾーンに声も響かなくなるんですね。
だから、理論上、軟口蓋が上がって壁にベタっとくっついたら、イタリアでもよく言われる、voce in maschera(仮面の中の声)、頭腔への道が遮断されて、声が絶対響かなくなるはずなんですよ。
そのような理由で、実は、軟口蓋を上げて歌いましょうっていう教師と、いやいや軟口蓋は下げろ、という教師の、 軟口蓋論争っていうものがずっと起こり続けてたんですよね。今でもそうだと思います。
これは一体どういうことだ??と、ずっと思ってたんですけど、実は、私が医療職の資格を取得するために解剖学を勉強した結果、なるほど、こういうことかな?っていう答えを私なりに導きました。
解剖学的な見解から説明している人が誰もいなかったので、ぜひ、ちょっと興味を持って聞いていただきたいと思います。
軟口蓋近辺の筋肉を見てみましょう
段階を踏んでお話をしていきたいんですけど、まず、軟口蓋をただ上げたり下げたりするっていうことは、全然難しいことじゃないんですね。これは私の口の中を取ったんですけれども、口からだけで息を吐くとこうなります。
軟口蓋が上がったのがわかりましたでしょうか?逆に、口を開けて口から息を吐かずに鼻息を出したら軟口蓋が少し下がりましたよね。
なので、口だけで息を吐けば軟口蓋が上がりますし、口を開けて鼻息を出せば軟口蓋は上がらないんです。
結果的に口だけからが出ていって、 軟口蓋が上にべったりくっついて、そうすると、鼻腔が完全に遮断されますので、共鳴スペースがなくなります。
軟口蓋は、実は解剖学的には口蓋帆とも言われるんですね。
これは、帆と書いて「はん」と読むんですけれども、 船の方みたいに可動しながら緩んだり張ったりっていうものに似てるっていうところから「はん」名付けられてるんですね。
軟口蓋関連の筋肉
軟口蓋の動きに関するこうものは、これらがあります。
口蓋帆挙筋、口蓋帆張筋、 口蓋舌筋、口蓋咽頭筋の4つですね。
それでは、1つ1つ筋肉の起始、停止、それから作用を見ていきましょう。※筋肉とは例外なく停止→起始の方向で収縮をして、骨を動かします。
口蓋帆挙筋(軟口蓋を挙げる)
まず口蓋帆挙筋です。
口蓋帆を挙げる、と書きますので、大体想像がつくかもしれません。起始は蝶形骨です。目の後ろの方に位置する蝶のような骨です。
停止は、軟口蓋についてます。
作用は、停止→起始の方向動きますので、軟口蓋を上げるという作用です。口蓋帆挙筋…つまりこれは名前の通りの働きですよね。
口蓋帆張筋(軟口蓋を張る)
それから、口蓋帆張筋です。
帆張筋も帆挙筋も、同じような方向で筋肉がついています。帆張筋の方は、起始が側頭骨です。耳の近くにあります。停止は軟口蓋です。
口蓋帆挙筋と同様の方向に動きます。作用は、軟口蓋を上げるという作用。なんですけど、名前を見ていただくと、口蓋帆挙筋に対して、口蓋帆張筋となってます。
なので、どちらかと言ったら、口蓋帆挙筋よりも、挙げる力というのはそんなに強くなくて、軟口蓋を緊張させるという役回が大きい筋肉です。
口蓋舌筋(軟口蓋を下げる)
それから、これが口蓋舌筋です。
起始が舌の側面の方にあります。停止は軟口蓋です。作用は、軟口蓋を下げる、です。下げるというか、軟口蓋を舌に近づけるような、そんな役割を口蓋舌筋は担っています。
口蓋咽頭筋(軟口蓋を下げる)
そして、口蓋咽頭筋です。
これは起始が軟口蓋 で、停止がなんと!甲状軟骨についているんです。作用としては、停止からこーいう道を辿って筋肉の収縮が起こって、結果、この山を越えて軟口蓋を下げるという、そういう動きをするのが口蓋咽頭筋です。
軟口蓋論争の犯人は!?
では、軟口蓋論争の犯人についてです。頭部の共鳴を得るにはやっぱり理論的には軟口蓋が下がってないと絶対に頭部に共鳴しないんですよね。
よく上にべったりくっつくまで挙げるわけじゃないんだ、っていう人もいるんですけど、でもこのスペースが狭くなる事で共鳴の可能性はどんどん狭まります。理想は少しでも広い空間が開く事ですので。
絶対この中の響きは小さくなっていくはずなので、軟口蓋は上がらない方がいいはずです。じゃあなんで軟口蓋を上げていると言っている偉大な歌手が多いのか。
もしかしたら勘がいい人は、さっきの起始・停止の話の途中でわかったかもしれません。
軟口蓋論争の犯人は…
口蓋咽頭筋にあります。
口蓋咽頭筋の筋肉は、停止が甲状軟骨でしたね。で、起始が軟口蓋なので、軟口蓋を下げるといっでも、この起始から停止に向かう最初のところ、グーっていうところ。ここはかなり長い距離、 筋肉の動きが上方向に上がっていきますよね。おそらく、これが軟口蓋をげる感覚の犯人と思われます。つまり、軟口蓋を上げるっていうのは、
軟口蓋を本当に挙げるわけじゃなくって、この軟口蓋まで続いてる口蓋咽頭筋を吸縮させて軟口蓋を下げる。理論としては、これが正解になると考えられます。
いずれにしても、歌の練習で鏡の前で、口を開けて、軟口蓋をあげようあげようとする練習は全然意味がないってことがわかりますよね。
さて、そう理解した上でもう1歩ちょっと進んで考えてみます。この咽頭口蓋筋は甲状軟骨に停止があるんですね。
前回、外喉頭筋群の話でお話したように、いい声を出している理想的な感覚っていうのは、喉頭が引き下げられて、
この喉頭の上のところがぐっと持ち上がっていくような、そういう感覚になった時に発声っていうのはすごくいい状態で響きが上に上がってくるような感覚になるんですね。
声を出さないところで、喉を下げよう下げようとする練習も、声を出さないところで、軟口蓋をあげようとする練習も、意味がそんなにないもので、声を出していくフォームの中で、 2つの両立っていうのを考えて、いい響きを掴んでいくようにっていうことが大切です。
そんな理解で発声に取り組んでみるといいと思います。軟口蓋の真実、わかりましたでしょうかね!?
人間の身体の構造を知ると、いろんなことがわかります。感覚的な指導に偏っていくと、裏付ける根拠がなければ、正しい方向に進んでいるかどうかがわからない。
口蓋咽頭筋がこういう風に動いてるんだよっていうことは体の構造をちゃんと知らないと、 動き方の発想自体がなかなか出てこないと思います。そういった意味で、人間の身体を知るってことはすごく大事ですね。
なので、皆さん、やっぱり闇雲に発声を探すんじゃなくて、ぜひ、根拠っていうものを必ず持った状態で理解して取り組むっていうことを大事にしてください。
身体の解剖学を勉強するっていうのはすごくおすすめです。ということで、今日は軟口蓋のお話でした。
次回からは、呼吸筋に関するお話をしていきます。喉周りと同じかそれ以上に、ここの理解は大事です。ぜひ、学んでみましょう。
次回のお話→呼吸の解説その1、腹式呼吸は間違い!?
喉周辺の筋肉、覚えるのは実は簡単!→こちら
GOUDA AKITOMO(声楽家、作業療法士)
武蔵野音楽大学卒業、同大学院修了。イタリア国立ボローニャ音楽院留学。2004年「第35回イタリア声楽コンコルソ」ミラノ大賞、松下電器賞。2007年「第12回世界オペラコンクール新しい声」アジア予選ファイナリスト。彰栄リハビリテーション専門学校卒業、作業療法士の国家資格を取得。かごしま音楽教室Sing代表。
コメント
コメント一覧 (2件)
軟口蓋を挙げる、というイメージをすると、軟口蓋が下がる、という認識で合ってますでしょうか?
コメントありがとうございます、そのようにご理解ください。ただしあくまで感覚論です。人によってはあまり口腔内操作に固執しすぎない方がいい方もいると思います。