「内喉頭筋群」について詳細に解説!鍛える前に知っておくこと(声楽・合唱)

 鹿児島音楽教室Singのブログ「声楽、合唱発声の研究室」へようこそ。このブログは、発声に関するすごく細かい情報を発信していくブログです!

 今回は喉周りの筋肉、「内喉頭筋群」について解説していきたいと思います。

 喉周りの筋肉は大きく二つに分けられます。「内喉頭筋群」と「外喉頭筋群」です。「内喉頭筋群」の役割、働きを知ることで、声が枯れたり、高音が出なかったり、そういう声のトラブルの原因がわかるようになります。少し難しいですが、何回か見直して理解していただけるといいと思います。

 「外喉頭筋群」については次回にお預けしまして。今回は、「内喉頭筋群」について学んでいきましょう。

今回の話

♪6つの筋肉群「内喉頭筋群」の起始・停止

♪6つの筋肉はそれぞれどんな役割をしているの?

♪裏声と地声って何が違うの?

内喉頭筋群って何?

 内喉頭筋群は、喉頭原音を作る役割を果たしています。喉頭原音とは何か?それは、全ての声の出発点とでも言うんでしょうか、音のそもそもの起点となる音です。声というのは、口や副鼻腔などで音が共鳴した結果「あいうえお」の明瞭な音になっています。この共鳴される前の音が「喉頭原音」なんですが、「ビー」っというような、実はすごく淡白な音みたいなんですね。ただもちろん、声の強さやテンション、厚み、高さを作る超重要なものです。

 では「内喉頭筋群」の6つの筋肉について、お話をしていきたいと思います。

 ※内喉頭筋群のお話の前に、前回の記事(筋肉の基礎知識)を見ていない方は必ずこちらをご覧ください。→筋肉の「起始・停止」

内喉頭筋群それぞれの起始と停止

 まずは前回のおさらいなんですけれども、喉頭っていうのはですね、全部で5つの軟骨でできてます。甲状軟骨、それからその下にある輪状軟骨喉頭蓋披裂軟骨舌骨ですね。 

 そして喉の筋肉の名前についてです。前回申し上げましたが、 起始・停止の部位名から名前を付けられているところがほとんどです。具体的に見ていきましょう。

 輪状甲状筋 〈起始〉輪状軟骨、〈停止〉甲状軟骨 

 内側甲状披裂筋外側甲状披裂筋。外側にあるのが、外側甲状披裂筋で、内側にあるのが内側甲状披裂筋。両方とも〈起始〉甲状軟骨、〈停止〉披裂軟骨

 後輪状披裂筋 〈起始〉輪状軟骨の後ろ側、〈停止〉披裂軟骨

 披裂軟骨には、横と斜めに3つ筋肉があります。

 起始・停止はそれぞれ左右の披裂軟骨です。 左右それぞれに停止と起始があります。

 という感じで、筋肉、それから起始・停止についてでした。

 では次に、それぞれがどういう作用をしてて、 そういう動きをするのかということですね。詳しく見ていきましょう。

輪状甲状筋の役割(高音発声)

 まず輪状甲状筋です。筋肉は停止が起始に近づくので、こういう方向に甲状軟骨が動かされます。

  そうすると何が起きるかというと、声帯が引っ張られて、伸びます。で、伸びることによって声帯の張力が生まれて、 声が高くなっていきます。なので、輪状甲状筋は、声帯を引き伸ばして、張力を作ることによって、声を高くする、という働きがある筋肉です。声帯自体に力を加えるんじゃなくて、 甲状軟骨を動かすことによって、結果的に声帯を引っ張って、張力を作って、高い音を作るんですね。 

 それが、輪状甲状筋の役割ですね。

外側甲状披裂筋の役割(コントロール)

 次に、内側甲状披裂筋と外側甲状披裂筋です。運動としては、停止が起始に近づいていくわけなので、こういう方向に動きます。 

 外側と内側で少し働きは違いますので、細かく見ていきましょう。 

 外側の方は、結構大きな筋肉で、さっきの輪状甲状筋は、このような方向に伸ばされて結果的に先端をぐっと引っ張られましたよね。

 例えば、輪状甲状筋の作用で、引っ張りすぎたな..って思った時にどうバランスを取るかっていう話なんですけど、 引っ張りすぎた場合に、例えば反対側に向かう力で引っ張ったらどうでしょうか。

 そうすると、より張力が大きくなってしまいます。(ゴムを両側から引っ張ることを想像してみてください)。ちなみに後ろ側に引っ張る筋肉っていうのは基本的に存在しないんです。どういう風に張力のバランスを取るかと言ったら、

 例えばこの外側甲状披裂筋が輪状甲状筋と同じ方向に動いて張力のバランスを(ブレーキになるような力で)コントロールをするという、 そんな重要な役割が外側甲状披裂筋にあるんです。

 その他は低音の発声に重要な役割を果たしてるという論文が..何十年前から出たみたいなんですけれども、 声帯の後ろから前にかけて、力を使うことによって、喉を緩めることによって、低音発声に作用するんじゃないかっていう仮説があるみたいです。完全に解明はされてないみたいなんですけどね。ここでより詳しく触れることはできませんが、そのような仮説もあります。

 とにかく、そういう働きをしてるのが、外側甲状披裂筋です。

内側甲状披裂筋の役割(声帯を厚くする)

 内側甲状披裂筋の方はというと、輪状甲状筋を使って張力を持たせる時というのは、輪ゴムを引っ張るときと同じで、ぐっと引き延ばすと、薄くなりますよね。 

 その薄くなった声帯に厚みをちょっと持たせるという、役割をしてます。

 内側甲状披裂筋は、停止の披裂軟骨から甲状軟骨にかけて力が働くんですが、筋肉の距離はあまり大きく短縮しません。これを「等尺性収縮」といいます。等尺性収縮というのは、力こぶを出す、ようなものです。筋肥大が起こるんです。

 例えると、上げるのが難しいぐらい重いダンベルをぐっとこう、力を入れようとすると、

 ここの筋肉がですね、ぐっと緊張しますよね。そうすると、筋肉に厚みが出るんですけれども、それと同じように声帯にも少し厚みが生まれます。 

 輪状甲状筋で使った張力によって薄く引き伸ばされてしまうところに

 薄くなっていく裏声の要素に、この厚みを持たせるっていうことが、高い音に地声の要素を組み込んでいくポイントになる。そういう働きっていうのが、この内側甲状披裂筋にはあります。

 簡単にまとめると、裏声の要素は「輪状甲状筋」で作られて、地声の要素は「内側甲状披裂筋」で作られる、と解釈してもいいと思います。

後輪状披裂筋の役割(声門を開く)

では次に、後輪状披裂筋です。

 披裂軟骨から輪状軟骨中央の起始部にかけて、こう動いてますね、こういう方向で動います。(動画をクリック)

結果、披裂軟骨を外側に開いて、専門的には外転と言うんですけれども、声を出し終わって息を吸う際に、声門を開く、

そういう役割を担う筋肉です。

 声門というのは声出す時閉じるんですが、 過剰に閉じてしまった時は筋肉が過緊張に陥ってしまいます。必要以上に過緊張に陥ってしまうと、声帯がうまく振動しなくなってしまいます。つまり、運動能力を上げるためには、声帯周辺がリラックスしてるっていうことが必須になるんですね。

 だから、声門を開くと同時にバランスを取るっていう意味でも、この筋肉はすごく重要な筋肉ですね。それが後輪状披裂筋です。

横披裂筋、斜披裂筋の役割(声門を閉じる)

 では次に、この披裂筋群ですね。披裂筋群は、後輪状披裂筋の逆の働き、つまり、声門を内転して閉鎖するっていう役割です。

 この方向に動くということは、声門を閉じます。かなりダイレクトに声門を閉じる筋肉ですので、この筋肉、使いすぎると固い声を作ってしまうという原因にもなったりしますので、ある程度リラックスして、この筋肉が動く必要あります。

 地声と裏声は何が違うの?

 こんなようにして、内喉頭筋群は働いてます。

 で、ここで、先ほどお伝えした地声と裏声についてのお話を、最後にしていきたいと思います。 まず、ミックスボイスっていう言い方をする動画なり、ボイストレーナーの方なりいますよね。 

 地声と裏声の真ん中、半々の、中間のような声っていう言い方をしますけれども、しかし私の見解ではちょっと違います。

 地声と裏声を混ぜるというものではなくて、輪状甲状筋で張力を持たせた状態を裏声の要素とするならば、内側甲状披裂筋の厚みを持たせていくのが、地声の要素となってきます。で、それを両方をうまく利用して両立させる訓練のことをミックスボイスという風に言うならば、途中の訓練過程のことをミックスボイスと言うのではないかと考えています。 

 なので、特別な訓練という意味合いでyoutubeなんかで、ミックスボイスの出し方っていうような動画もたくさんありますけど、輪状甲状筋もしっかり使って、内側甲状披裂も同時にしっかり使ってという、言わば、「訓練過程で必ず取り組んでいかなければならないもの」なんですね。

 この部分はミックスボイスで出して、この部分は裏声で出して、この部分は地声で出してとか、 そういう風に綺麗に3分割されてるようなものではなくて、本来地声と裏声というのはグラデーションがあるものなんです。テクニックの1つというよりも、こういう言い方しかできないんですけど、訓練段階の練習段階のことを指すんじゃないかなと思ってます。

 輪状甲状筋の作用で、声帯が張力を持つと声帯が薄くなるって話をしましたよね。で、その状態で声帯が振動すると、声帯って三層構造になってまして、この中の方に内側甲状披裂筋があって、これを声帯筋とも呼びますが、

 要するに、この筋肉の外側に靭帯があって、その外側に最後、粘膜があるんですけれども、 裏声っていうのは、この粘膜だけが振動している状態になってるんです。 

 で、声帯にちょっと厚みが出て、靭帯、それから筋肉の方まで振動が大きく動いていく。そうすると、声の密度っていうのがどんどん濃くなっていって、地声に近く聞こえてくる。 

 そういう現象っていうのが、地声と裏声、そして言うならば、その2つの融合したミックスボイスっていうものになります。 

 この2つの融合については、また機会があれば、別の記事で色々とお話をしていきたいなとは思ってます。

最後に

 最後に、これは実はすごく重要なんですけれども、内喉頭筋群は、非常に小さい筋肉なんですね。 

 そういう小さい筋肉が、精密機械のように動いてるんです。で、自分の頭でこう考えて、意図的に、 意識的にコントロールするっていうことは、ほぼ不可能なんじゃないかなと。

 みんな本能的に、この筋肉っていうのを働かせてるんじゃないかなと思います。内喉頭筋群の運動がうまくいったかどうかを確認するすべは、声の高さと声の厚さ、厚みというものを耳で聞き分けるしかないんですね。で、前にも言いましたけど、意図的に内喉頭筋群を、作為的に使用してやろうと頑張っていく必要は…

 全くありません。ただ、イメージトレーニングとして、こういう筋肉がこういう風に作用してるんだなっていうことを想像しておくことは、 1つ有効なものです。

経験上、あらゆる意味で助けになるんですね。今日のお話、ぜひ、何回か見返してもらって、理解をしていただけたら、皆さんよ発声の助けになると思います。

今回は、内喉頭筋群のお話でした。

次回は、声の響きを作る外喉頭筋群の話をしていきます。

次回はこちら→「外喉頭筋群について」

GOUDA AKITOMO(声楽家、作業療法士)

武蔵野音楽大学卒業、同大学院修了。イタリア国立ボローニャ音楽院留学。2004年「第35回イタリア声楽コンコルソ」ミラノ大賞、松下電器賞。2007年「第12回世界オペラコンクール新しい声」アジア予選ファイナリスト。彰栄リハビリテーション専門学校卒業、作業療法士の国家資格を取得。かごしま音楽教室Sing代表。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • めちゃくちゃわかりやすいです!!!
    いままで覚えられなかった筋肉の名前が、するすると頭に入っていく感じがします。
    ありがとうございます!!!

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