声楽、合唱発声の研究室へようこそ。このブログは、発声に関するすごく細かい情報を発信していくブログです。1回目の今回は、この先ブログを読み続けていく上で超重要な基本知識となります。ここの知識がしっかりと入っていないと毎回「何を話しているの?」となりますので、しっかりとインプットしましょう。
今回の話
♪ 筋肉の「起始・停止」って何?
♪ 筋肉はどうやって動いているの?
♪おまけ:喉周りの筋肉の名前は簡単です。
スポーツ界に対して..音楽界の研究進歩
近年、スポーツ界では科学的な理論、トレーニングが進んでいます。その影響というものは主に医療、特に…「理学療法(フィジカルセラピー)」においての知識や手法からの影響が大きなものです。楽器演奏の世界でどのくらい身体理論や考え方、指導法に活かされているのかは僕はそこまで詳しくありませんが、少なくとも歌、発声の指導者がこの辺りをどのくらい理解しているのかというと…スポーツ界からはかなり遅れをとっていると感じます。
僕は歌唱指導やボイストレーニングの世界も、理論やトレーニング手法がどんどん進んでほしいと切に願っています。そんな夢を見てこれから「歌手の体についての知識」をこのブログで広げていけたらいいなと思います。
起始・停止って何?
今回は、知識としては基礎中の基礎です!筋肉運動の基礎知識として皆さんに「必ず」知ってほしい内容となります。もう一度言うと「必ず」知ってほしい筋肉運動の基礎知識、”必須の知識”です。このブログの発声関連の記事は、皆さんが今回の記事を読んでいることが前提として進んでいきますので、今回の記事に何回も立ち戻ってみてください。そのくらい重要な記事です!
まず皆さん、人の体はどうやって動いていますか?…骨が動いています、関節が動いています。
もちろんそうなんですけれど、その骨、関節を動かしているものは…「筋肉」ですね。筋肉は骨や軟骨にくっついてます。そして、多くの筋肉は関節を「またいで」くっついてるんですね。「またいでいることで」筋肉が骨を動かして、関節が活躍できます。
では今回は筋肉の運動例として、”肘の曲げ伸ばし”で例えていきます。
これはいわゆる二の腕ですが…解剖学の世界では「上腕二頭筋」と言います。この上腕二頭筋は、肩甲骨の一部分(関節上結節という場所)から、前腕の一部分(橈骨粗面という場所)にくっついています。
筋肉の運動特性は上腕二頭筋だと”前腕にくっついている場所”が、”上腕の上にくっついてる場所”に近づいていく。
そうやって、筋肉の一端部分がもう一端部分に「近づいていく」ことによって、結果的に、肘の関節が曲がる、という仕組みになっています。
そしてここが大事です!上腕二頭筋の前腕のくっついている部分を「停止」と呼んで、で、上腕の上の方にくっついてる部分を「起始」と言います。解剖学では、全ての筋肉の付着部分に「起始」と「停止」が定められています。
簡単にいうと、「起始と停止」は、筋肉が「ここからここまでついていますよ」ということを意味しているんですね。
ほとんどの筋肉は、体の中心部分(心臓)に近い方が「起始」で、指先や足先に近い方が「停止」となっています。(例外ももちろんあります。例えば、腹筋の幾つかの筋肉がそうですが)
「体のどの部分のどの筋肉もそう」なんですけれど、筋肉は必ず「停止」から「起始」に近づいていくことで筋肉が短くなって(正しくは収縮といいますが)、結果的に骨が動かされて、皆さんの生活動作が行われているんです。筋肉は必ず停止→起始方向で縮んでいくという運動特性があるんですね。
じゃあ今度は、逆に、曲がった肘を伸ばす際はどのような運動をするでしょうか。肘を伸ばす際は、上腕二頭筋の停止が、元の位置に戻ろうと作用する…するわけじゃなくて、 この反対側の上腕三頭筋を縮めるんですね。上腕三頭筋の停止部分(肘部分。肘頭と言います)から、上腕三頭筋の起始部分(関節下結節)の方向に筋肉が動こうとすることによって、 肘が伸ばされるんですね。
なので、筋肉っていうのは、必ずその停止から起始の方に、収縮していく、近づいていく、という風に動いています。
停止と起始が両方とも、中央に寄っていって収縮するわけでもなくて、もちろん起始から停止に行くわけでもないんですね。
そうやって筋肉を動かして、骨が動かされることによって、人が運動をして、結果的に日常の生活を成せているということです。人体って不思議ですよね!
※全身の筋肉の起始停止を詳しく知りたい方→羊土社のPDFファイル
僕は、療法士の国家試験を受けるにあたって、100以上の筋肉の起始停止を…暗記しました..。結構大変でした。。でも実は、全て丸暗記しなければいけないのかと言ったらそうではないんです。
喉の筋肉の名称は、意外と簡単
特に、喉周りの筋肉の名称は、実はとても良心的な名前の付け方になっています笑。
喉周りの筋肉はこれだけあります。これ覚えるの?やめて〜、と思った方。安心してください。
まずは軟骨の名前を覚えましょう。舌骨、喉頭蓋軟骨、甲状軟骨、輪状軟骨、披裂軟骨、この5種類の名前と、肩甲骨、胸骨、鎖骨(この辺りはほとんどの人が分かると思います)をまず知っておきましょう。
喉の筋肉群は、ほとんどの筋肉の名称は「起始→停止」の順番で名前がついているんです。
例えば、〈起始〉輪状軟骨、〈停止〉甲状軟骨、の筋肉は「輪状甲状筋」、
〈起始〉甲状軟骨、〈停止〉舌骨、の筋肉は「甲状舌骨筋」、
〈起始〉甲状軟骨、〈停止〉披裂軟骨、の筋肉は「甲状披裂筋」、
〈起始〉披裂軟骨、〈停止〉喉頭蓋、の筋肉は「披裂喉頭蓋筋」、
〈起始〉肩甲骨、〈停止〉舌骨、の筋肉は「肩甲舌骨筋」、
〈起始〉肩甲骨、〈停止〉胸骨、の筋肉は「肩甲舌骨筋」、
のように、東京→八王子まで続いている道路を東八道路と言ったり、日暮里駅から舎人駅までの線路を日暮里舎人ライナーと言ったり(ローカルすぎましたが…)そんな名称付けになっています。
筋肉の付着部位を見て、名前と起始、停止がわかると、前述の起始、停止の知識があればどのような方向に動くかも、すぐにお分かりになることでしょう。
では、喉の筋肉の具体的な話は、次の記事にて詳しくお話ししたいと思います。
続きはこちら→発声②「内喉頭筋群」
GOUDA AKITOMO(声楽家、作業療法士)
武蔵野音楽大学卒業、同大学院修了。イタリア国立ボローニャ音楽院留学。2004年「第35回イタリア声楽コンコルソ」ミラノ大賞、松下電器賞。2007年「第12回世界オペラコンクール新しい声」アジア予選ファイナリスト。彰栄リハビリテーション専門学校卒業、作業療法士の国家資格を取得。かごしま音楽教室Sing代表。
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