ピアノによる絶対音感教育

 歌のレッスンを十数年行ってきた経験則で、「この子はどうしてか…レガートが苦手だな。」という生徒さんに時折、出会うことがありました。レガートとは、音を繋げて歌う技術のことです。

 歌う音程が、どうしても階段を進んでいるようにしか作れず、坂道を滑らかに歩くような音程が作れない。でも、音程はとても正しい。私の中では、早い段階で原因が容易に想像がついたのですが、ある日「小さい頃、ピアノ習っていた?」と聞くと、「はい」と答えが返ってきました。そのほかの同じ傾向の生徒さんにも同じ質問をすると、100パーセントの確率で「はい」と返ってきます。そして、多くの人が「絶対音感教育を受けた」とのことでした。

 絶対音感とは、前もって一切音を提示されることなく、突発的に鳴った音でも音の高さ(ドレミ、♯、♭、和音も含め)がわかる能力です。2、3歳頃の音程という概念が頭に入る前に、和音提示をして色旗を選ぶメニューが多いですが、そのようにして鳴っている和音を全て当てていくようにして教育されることが一般的です。

 しかし、ピアノの平均律(すべての音の高さが調律されている)による絶対音感教育を受けた後、「相対的な音感」や「ドとド♯の間にも音の高さがたくさんある」という概念を学ぶ機会がなくそのままになってしまった人は、前述した「階段のような音程」でしか音程を捉えられず、滑らかに歌うことに明らかに苦労する傾向にあります。

 絶対音感は、もっていると、耳コピーをする際に特に便利です。あとは、音大受験の際の聴音では圧倒的に有利です。しかし、ヴァイオリンや声楽などの純正律で演奏する楽器を演奏する場合は、「相対音感」がなければ前述のような弊害が出てきます。(誤解を恐れずにいうと、絶対音感教育の後で、必ず「相対音感」のトレーニングで修正していけば、弊害はないと言われます)。

 ですので、絶対音感とは誰もが羨む能力ではありますが、その上に音楽基礎をちゃんと積まないで教育が終わってしまうとデメリットが勝る場合があることを知っておいてください。

 歴史的作曲家も、持っている人もいれば持っていない人も大勢います。一つ確実に言えるのは、「絶対音感」は「絶対的なスキル」ではありません。

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